農業の出荷・調整作業に悩んだときに見直したいこと

Q:出荷調整が間に合わないことがあります。改善策はありますか?
A:ライン方式(分業制)と1人方式(担当制)の切り替えを検討してみましょう。
出荷調整作業は「4定」の要である
意外と軽視されがちなのが、出荷調整作業の生産性です。調整作業は、間に合えば良いだけの「単純作業」ではありません。定時・定量・定質・定価格の「4定」の要です。
調整作業に魂を込める
出荷調整作業とは、圃場で採れた農作物を、販売先に届けられる形にする作業です。土や古葉を取り除き、見た目やサイズを出荷規格に合わせて、袋やコンテナに入れます。規格外品(いわゆるB品)を弾く役目も果たします。
農作物の付加価値を高める重要な工程だと言えます。消費者に最も近い作業である最終工程だから重要という言い方もできますが、実務的にいえばデッドラインが決まっている作業だからカイゼンの必要性の高い作業です。
効率性だけでなく生産性にも着目しましょう。この作業は、定時・定量・定質・定価格の「4定」の要です。古葉の取り方やシールの貼り方1つで、農作物を手に取った時のお客様の感動が変わります。場当たり的に扱うのではなく、予め計画立てて仕組みづくりをしておくのが良いと思います。
調整作業に見られる2つの方式
出荷・調整作業は、どちらかというと農業というよりも製造業的な性質が強い作業です。製造業の知見が活きる領域だと言えるでしょう。
出荷調整作業を大局的に見れば、ライン方式と1人方式に分けられます。ライン方式(分業制)というのは、各個人に1つの作業を割り付けておき、品物がラインを移動するように調整作業を進める方式です。
佐藤さんは皮むきと泥落とし、鈴木さんは根切りと葉切り、田中さんは選別と仕分け、小林さんが結束と袋詰めをそれぞれ担当するといった具合が、ライン方式です。
一方、1人方式(担当制)では、それぞれの人が最初の工程から最後の工程までを一貫して担当します。4人で作業を行う場合にはスペースを4つ用意して、それぞれの人が独立して最初から最後まで進めます。

1人方式のメリット
いろいろな調整作業を拝見していますが、ライン方式を採用している農家の方が多い印象があります。
少品種多量生産の場合や、本格的な調整機を導入している場合には、ライン生産は相性が良いです。
ただし、有機農業で多い多品種少量生産においても、ライン方式は珍しくありません。
一方で、1人方式を採用している農家もあります。
農業経営アドバイザーとしては、1人方式はメリットも多く、ぜひ一度は検討いただきたい調整方式です。
数量予測が立てやすい
1人方式の分かりやすいメリットとしては、数量予測を立てやすいことが挙げられます。1分間にどれだけの量を調整できるかが目に見えて分かるので、時間の読みや人員の確保が容易です。
従業員の方も、必要以上に早出をしたり、急な残業を強いられたりする可能性が下がります。
ライン方式の場合には、「先週は4人で300袋を詰められたから、200袋なら3人くらい?」といったように、読みが曖昧になりがちです。結果として、出荷時間が迫ってくると現場の空気が悪くなることも。
「時間がギリギリだから最後の確認は省略」となってしまえば、お取引先様との信頼関係に悪影響が出かねません。

責任・評価が明確
1人方式なら、誰が何袋やったのかが明確になります。
経営者としても、頑張った人には報酬で報いることもできます。過度な競争を煽るのではなく、1時間に○袋できるようになれば時給アップ、という風に絶対評価にすればチームの輪も乱れづらいでしょう。
従業員側も自分の成長が目に見えて分かるのはやりがいを感じられるものです。
カイゼン提案が出やすい
1人方式の場合、カイゼン提案を従業員に出してもらいやすいです。ライン方式だと他責的な発言が増えがちです。1人方式であれば好成績を収めている人のノウハウには注目が自然に集まります。
農家の本来業務は圃場での作業だと私は考えています。だから、出荷調整のカイゼンが後回しになってしまうことは、構造上は仕方のないことかもしれません。
その点、従業員の気づきをカイゼンに活かすことも、1人方式の狙いです。
従業員のモチベーションアップにも効果があります。
人間関係のトラブルへの対応
作業員同士のコミュニケーションの取り方が、ライン方式と1人方式では異なります。
ライン方式は、役割分担が明確、かつ、工程間のコミュニケーションが必要です。作業の間雑談が続けば良いですが、従業員同士の相性によっては「なんで作業が遅れているの!」と前工程の人を責める人も出てきてしまいがちです。
相性が良くない人同士が同じシフトに入ることもあるでしょう。
従業員間のコミュニケーショントラブルが起こったときなどには、1人方式への切り替えは暫定的な解決策になりえます。
1人方式のデメリットと主な注意点
段取り替えの頻度が増える
ご想像の通り、包丁からハサミに持ち替えたり、ボードン袋を開いたりといった段取り替えの頻度は増えます。
ただ、生産管理の理論的には、一見非効率に見えてもトータルの作業時間は意外と変わらないケースも多いです。むしろ、1人で完結することで改善点に気づきやすくなり、結果的に作業時間が短縮するという説もあるくらいです。
この辺りは、作業の内容や難易度によっても変わるので、ストップウォッチを持ってゲーム感覚で計測してみるのも面白いでしょう(従業員に圧迫感を与えることは避けましょう)
作業が複雑になる
1人方式の場合、1人の作業員が色々な作業を行えなければなりません(いわゆる多能工化です)
出荷調整の作業は比較的単純ですが、それでも作業適性に差があったり、苦手なことがあったりする場合には、当然ながら配慮が必要です。
そうした場合には、1人で全てを完結させる1人方式は不向きです。

品質がばらつきやすい
一般にライン方式の場合には、後工程に正社員や熟練アルバイトを配置することが多いです。これによって前工程での不良品を検知しています。
パート・アルバイトさんの熟練度や信頼感にもよりますが、1人方式には向いていない職場もあります。
なお1人方式の場合には、他の人の目が通らずに出荷されていくことになります。教育の徹底やマニュアルの整備など、属人化対策を行うことは大前提。それに加えて、それぞれの作業者が調整した袋をランダムにいくつか検査するなどして、品質の維持に努めてください(繰り返しになりますが、従業員の士気を削ぐような露骨なやり方は避けましょう)
機械化が進んでいたら導入できない
ライン方式を前提として機械化が進んでいる場合には、1人方式への切り替えは不可能です。
この場合には、ライン方式を前提として、ボトルネック工程の炙り出しやレイアウト図の策定と作業動線の見直し、さらなる機械化に向けた投資検討を進めることになります。

(レイアウト図を作成してムリ・ムダを可視化した上で、改善策を模索します。特定を防ぐために、レイアウト図は大幅に変更しています)
従業員の意見を最大限に反映する
出荷調整の生産性・効率性を上げるための手法は、上述したような生産方式の変更以外にもいろいろあります。
農園ごとに適した方法は異なります。課題感がある場合には、一緒に整理していくことも可能です。
ところで、カイゼンのためのポイントが1つあります。
従業員の意見を積極的に取り入れることです。
むしろ、従業員が積極的にカイゼン提案をしてくれるような雰囲気づくりのために、出荷調整作業を利用するくらいの感覚でも良いかもしれません。

農業では、経験が物を言います。だからこそ、「上の言うことを真面目に守る」ことがどうしても評価されがちです。
「自分の意見なんて、どうせ…」と思われてしまっては、従業員の成長は見込めません。
令和だからというわけではありませんが、経営者と従業員は、信頼関係の下でディスカッションをする機会も時には必要です。
それに向けて、出荷調整作業は恰好の題材です。
作業体系は農業の中では比較的単純で、結果もすぐに表れます。しかも結果は、時間と数量という形で見えやすい。
従業員側としても、出荷調整作業のカイゼンはモチベーションを感じやすい領域です。
出荷調整は、単なる後工程ではありません。
「なんとなく回せているから」で終わらせずに見直してみることは、農園全体の成長につながる一歩です。
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