借金は何のために借りるの? 農業の借入の理由と考え方
Q:農家ですが、借金をする理由が分かりません。正直なところ、借金をするのは怖いです。
A:リスクは確かにありますが、農地取得や設備投資のときには、借入は一般的な手段です。経営規模を素早く拡大するためには、借入は効果的だと思います。
何のための借入?
農業経営と切っても切り離せないのが、金融機関からの借入です。実際に、多くの農家さん・農業法人さんが借入をうまく使って、農業の大規模化や経営の発展を成功させています。
借入と一言で言っても、その内情は様々。いろんな農家さんが、いろんな目的や想いを持って、金融機関からお金を借りています。それでは、実務的にはどういった種類の借入があるのでしょうか。農家さんが借入をする主な理由(設備投資・運転資金・赤字補填)を考えた上で、それぞれの借入の目的や注意点について解説します。
勢いのある会社は、なぜ借入を活用しているのか
事業を行う上での借金は決して悪いものではありません。世の中の大企業を見てみても、多くの企業が金融機関から借入をしています。上場企業の場合は財務状況が公開されているので、気になる企業の借入額を見てみてください。その金額に驚くことと思います。
お金は既にあるはずなのに、なぜ借金をするのでしょうか。その理由は、上場している企業であっても個人事業主で農業を営む農家さんにとっても同じで、経営を良くするためです。たとえば、本来であれば数年から10年以上かけて現金を積み上げないと見えなかった世界に、借入を活用すれば一気にたどり着けます。年間販売額3000万円規模から6000万円規模に数年で到達するためには、事業性融資はかなり有力な選択肢の1つになります。成長している企業は、大きな目標に最短ルートでたどり着くためのムーンショットとして借入を活用しています。
もちろんこれはただの一例で、実際にはネガティブな性質を持った借入もあります。天災・連作障害・病虫害によるダメージをゼロに戻すまでの補填として借りる農家さんも当然います。というか、借り手の数だけ借入の種類があるのですが、実務的には借入を目的ごとに整理して考えることが多いです。他の農家さんの借入の目的や、その借入によって農業経営はどのように変わるのかを、実務目線で見ていきましょう。
農業における前向きな借入とは? 設備投資と運転資金
金融機関からお金を借りるときには何らかの目的を持って借ります。その目的のことを「資金使途」と言います。資金使途は大まかに「前向き」なものと「後ろ向き」なものに分けられるので、まずは前向きなものから見ていきましょう。
設備投資
前向きな借入の代表例が、設備投資のための借入です。たとえばハウスを建てる、出荷施設を作る、直売所や商談施設を作ることを目的とした借入ですね。経営規模を拡大したり、直販・6次化などに業態を広げたりするので、明るい前向きな借入だと言えます。
設備に新しく投資する場合には、数千万円から1億円を超えることも珍しくありません。しかも、関連する機材やランニングコストも予め考えておかなければなりません。たとえばハウスを建てると言っても、まずは土地を買うか借りるかしなければなりませんし、暑さ・寒さ対策も行いますよね。出荷施設といっても、コンクリートの建物だけを建てて終わりというわけにはいかないので、調整機や人件費なども考慮しなければなりません。これを自分や法人の財布から捻出するのはかなり難しいですし、手元の現預金残高が減ってしまうと経営の安定性も損なわれます。そこで、金融機関からの借入を行います。
設備投資目的の借入を行うと、経営規模はかなり大きくなります。たとえば、年間販売額3000万円の農家さんを想像してみましょう。借入・投資を行う前の状態については、既存のハウスや農機などの資産額(簿価)は平均的には1500万円分くらいです。その農家さんが、1500万円のハウス(と関連設備)を建てるために借入を行ったら、資産額は単純に2倍になりますよね。販売額もそれに応じて大きくなるはずで、年間販売額は5,000万円は超えてくるケースが多いでしょう。成り行きに任せていたら5年・10年は掛かっていたかもしれないところ、わずかな期間で大規模農家の仲間入りもありえます。
もちろん、借りたお金はきちんと返さなければいけません。返し方にも王道の方法があります。設備投資の場合には、投資をした設備から発生する利益で返済するのが原則です。上の例のように1500万円の設備を新たに建てたなら、その設備によって増えた利益で返済します。返済期間10年間なら、年間に150万円分の利益を新たに生んで、そのうち約150万円を返済に充てるイメージです(あくまでもイメージです、実際には経年や減価償却、補助金収入なども考慮します)。
設備投資は金額も大きく、万が一にも返済が滞る事態になっては大変です。だから、借入を行うかの判断は慎重に行いましょう。その設備によって利益をきちんと生み出せるかがポイントで、借りた金以上にお金を新たに生み出せるなら借入をする、そうでなければ借入をしないのが原則。ただ、実際には結構考えることも多く、計画数量が下振れしたら、物価高騰でランニングコストが上がったら、従業員のパフォーマンスが上がらなかったら、市場ニーズが変化したら、などなどを計画に織り込んでおきます。投資判断に迷ったなら、アクセルを踏み込む前にお声がけいただければ嬉しいです。
農家さんや農業法人さんが設備投資を行う場合、日本政策金融公庫かJAバンクを利用することが多いです。「スーパーL」や「農業近代化資金」などは皆さんも聞いたことがあるかと思います。貸出期間が15年や20年と長めに設定されており、利子も低めなので、農家さんにとっては使いやすい金融商品ですね。
ちなみに、地銀や信金などの民間金融機関では、貸出期間が長期になりすぎることもあり、農業の場合には融資のハードルは高いです。設備投資目的の場合は公庫かJAバンクに相談しつつ、地銀や信金とは次に説明する短期・少額の借入を行って信頼関係を構築しておくのがオーソドックスかと思います。
運転資金(つなぎ融資)
前向きな借入としてもう1つ挙げられるのが、規模を拡大しているときの運転資金の借入です。
運転資金というのは、農業を継続するために必要なお金のこと。たとえば稲作農家さんの場合、10月くらいにならないと販売額が入ってきませんが、栽培に必要なお金は10月を待たずにどんどん出ていきます。多年生の作物を育てている農家さんも同じです。実際には収穫期払いなどの仕組みもありますが、それでもある程度の金額が出ていくので、「無収入なのに出費が嵩む」という嘆きはよく耳に入ります。
この運転資金が特に問題になるのが規模拡大のときです。たとえば圃場面積を1.5倍に拡大させたときは、収穫期には1.5倍の収入が期待されるものの、収穫までに出ていく支出も今まで以上に大きくなります。つまり、規模を拡大しているときには、「収穫期まで持ちこたえられるか」が問題となってくるわけです。
そのときに使うのが、運転資金の借入です。「収穫までの6か月間とか9か月間お金を借りて、販売額が振り込まれたら返済します」というものですね。なので、概ね6カ月、長くても1年以内を借入期間として設定するのが通常です(返済期間1年を超える長期運転資金もありますが、借入のハードルは少し高くなります)。収穫期などキャッシュインのタイミングまでのつなぎとして借りるので「つなぎ融資」とも言われます。
※製造業や建設業では「黒字倒産」という言葉がよく使われます。売上金が実際に入ってくるまでに持ちこたえられず、不渡りを出して倒産してしまうことです。テレビドラマで「貸してくれるって約束したじゃないですか!」と町工場の社長が銀行員に怒鳴っているのを見ますが、運転資金を借りられないと経営は本当に苦しいです。
特に農業は他業種に比べて、運転資金は比較的借りやすいと言われます。政策的な配慮もありますが、1つの理由としては、JAが支えてくれているので、「作れば売れる」体制が整っている農家さんも多いこともあるかもしれません。もちろん販売額の上下はありますし、商系出荷の場合はその限りではないです。でも、製造業の場合には作ったのに売れない事態が普通にある(むしろ、計画数量を売り切れる方が珍しい)ことを考えると、農業は安定性が高いと言えるでしょう。金融機関側はこの点を加味しているのかなと思います。
農業の場合、運転資金を借りるハードルが比較的低い事情をふまえると、運転資金の借入は地銀や信金などで行うのも1つの手かもしれません。設備投資は公庫(旧・国金)やJAバンクで借りた上で、運転資金を地銀・信金から借りて民間金融機関との関係性を作っておく。これは、経営の戦術としては大いにあり得ます。経営フェーズや様々な事情によるので記事として一概には書けないのですが、頭の片隅に入れておいてください。
後ろ向きな借金もある――赤字補填の借入について
続いて、後ろ向きな借金について。その代表例は、赤字補填を目的とした借入、いわゆる赤字運転資金です。
日頃から頑張って農業をしていても、資材費の高騰などによって赤字になってしまうことはあります。それは仕方のないことかもしれませんが、お金が減ってしまっていることは事実。かつての利益を食いつぶし、役員報酬を削ったり個人のポケットから捻出したりして取引先や従業員さんにお金を払うものの、それでも間に合わないときに赤字運転資金を借り入れて急場を凌ぐといった形です。
赤字運転資金を借り入れるということは、「手元のキャッシュが不足しているのでお金を借りて、経営改善を図る」という構図が生まれます。通常の運転資金や設備資金とは違って、マイナスからゼロラインに持っていくことを狙うので、どちらかというと後ろ向きなイメージとなります。
赤字運転資金の借入は、少しまずい状況です。借入額が膨らむと経営の安定性が下がりますし、もし計画通りに売上や利益が伸びなければ大変なことになりかねません。その計画自体が杜撰なものであれば廃業まっしぐらですし、その場合には法人を解散しても連帯保証だけが残る状況にもなりえます。それを避けるべく、経営規模の縮小や設備・農機の売却・ダウングレードを検討するのも現実的かもしれません。状況次第なので、お近くの経営アドバイザーとよく話し合ってみてください。
赤字運転資金を借りる場合には、計画をきちんと立てて(経営改善計画といいます)、それに向けて進めていける仕組みを整えて、赤字体質からの脱却を目指します。金融機関側も貸出には慎重になるので、新規の貸出だと謝絶される可能性も上がります。既存の取引金融機関と話し合いながら、経営改善に向けて尽力するのがオーソドックスなパターンです。
ちなみに、通常の運転資金と赤字運転資金の区別は意外と難しいです。たとえば一昨年度に赤字だった農業法人さんや、営業赤字・経営黒字の農業法人さんが運転資金を借りる場合、赤字運転資金に近い性質を持っているように思います。銀行側にうるさく言われる前に、計画はかなり慎重に立てた方が安全かと思います。「この借入、なんだか後ろ向きかも」と感じたときには、専門家に早めに相談するようにしてください。
コラム 赤字運転が悪いのか、赤字運転資金の借入が悪いのか
赤字運転資金が後ろ向きという話をしましたが、赤字運転資金の借入が「悪」かというと、そういうわけではないというのが私個人としての意見です。問題なのは赤字体質であって、赤字運転資金を借りること自体ではないはずです。置かれている状況を一刻も早く抜け出すことが重要で、その助けになるのならば赤字運転資金は積極的に検討した方がいいとすら思います(とはいえ状況次第なので、不安な方は早めにご相談ください)
一方、赤字運転資金を借りるべき場面で借りず、だからといって経営規模も縮小せずにやっていると、現預金残高がいよいよ逼迫してきます。そうなってから新規借入を申し込むと、貸出条件が悪くなったり融資実行に時間が掛かったりします。赤字運転資金を借りる必要がありそうなら、早めに動くのが良いです。
余談ですが、元銀行員として思うのは、銀行にとって貸した金が返ってこないのは確かに困りますが、金融庁や上司に詰められたりボーナスがカットされたりするくらいで致命傷にはなりません。一方の借りた側にとっては、借りたお金を返せないと、農機具や農地を奪われたり、経営者保証がついていればポケットにも手を突っ込まれたりする可能性があります。農業は政策的に強く保護されているので金融機関側が強気に出ることは比較的少ない印象ですが、それでもお金の貸し借りにおいて貸す側と借りる側でその重みが釣り合っていないことは現実問題として意識しておいた方が無難です。
借入は計画的に 早期にご相談いただければ、提供できるアドバイスの幅も広がります
ここまで資金使途ごとに、借入の狙いや内容について説明してきました。実際の借入判断に当たっては、支払利息の重さ、経営計画・投資計画との整合性なども加味するのが良いと思われます。
たとえば支払利息の話でいえば、年間の支払利息が年間販売金額の1~2%を超えたら危険水準だと言われます。これは教科書的な一般論であって実際には個別の状況次第ではあるのですが、利息の支払いや元金の返済が経営に致命傷を与える状況は避けたいですよね。資金使途的に正しく見える借入でも、多面的に見ることで違った見え方になることも当然ながらありえます。
借入に対して不安感を抱くのは、真っ当な感覚だと思っています。借入を含めた今の財務状況を把握して、返済を加味した今後の投資計画を立てるなど、数字で整理するだけで不安はある程度は小さくなりますし、それでも不安がぬぐえないなら借入は避けるのも一つの案だと思います。借入を含めた今後の経営計画を新たに立てたい・ブラッシュアップしたい、設備投資や返済計画をプロの目で確認してほしいなどの場合には、問い合わせからお気軽にお声がけください。

