農家にも投資計画は必要ですか? この投資、本当に大丈夫?

Q:農業を行う上で、モノやヒトへの投資計画は立てた方がいいですか?
A:これからの成長を考えるなら、投資の計画は立てておいた方がいいです。

農業をするなら投資は避けられない

農業をする上で付きものなのが投資です。ビニールハウスやトラクターを買うのも投資ですし、人を雇うのも投資です。先輩農家さんの中には、勢いで投資して大成功を収めた人もいます。一方で、手元の現金を使って投資をしたことで取引先への支払いや従業員への給与支払いが苦しくなったケースもあります。
農業では少なくない額の投資が必要です。しかも、その投資を回収するために長い年月が必要なのが農業です。投資の前に計画を立てて、それによって利益が本当に生まれるのか、現金は足りなくならないのかを確認しましょう。

設備を建てたい、機械を買いたい、正社員を雇いたい――投資決断のその前に

何も知らない人にとっては、農業といえば素朴で牧歌的に思えるのかもしれません。しかし一歩でも圃場に足を踏み入れてみたら、たくさんの機械が必要ですし、農薬も肥料も使わなければならないことがすぐに分かります。圃場で作業をしている従業員もボランティアではありませんし、圃場の隣の倉庫は建っていますし、その中には農業機械を保管しています。農地を借りるのにも買うのにも維持するのにも、お金はかかります。「農業って金が意外とかかる」というのは経営者であれば痛いほど実感しているはずです。


農業経営をする限り、投資は避けられません。その意味で経営というのは大きなリスクを背負うことなのだと思います。私自身も農業向けのコンサルタントとして活動していますが、経営者としての側面もあります。だから、リスクを背負う怖さも、それに伴う謎の高揚感も日々実感しています。

経営は選択の連続であり、早く正しい選択をできるのが良い経営者の条件だと思っています。チャンスの神様は前髪しかないですから、「補助金を獲得できそうだからビニールハウスを建てよう」「いい農地を借りられそうだから農機を買おう」「銀行からお金を借りられそうだから良いトラクターを買おう」といった決断をしたなら、是非とも応援させていただきたいと心の中では思っています。
ただ、農家さんや農業法人さんのお話を実際に聞くと、危うさを感じることがあるのも事実です。「その投資が必要なことは心の底から分かる。けれど、その額の投資をしてしまったら、2年後には行き詰まる可能性が高いです」といった助言をさせていただくこともあります。

今回は「農業と投資」のテーマで記事を書きます。結論としては、投資をするときは、その投資によって経営が詰まないように考えてから投資をしましょう、というものです。投資は絶対に必要。しかし過剰な投資は経営を破壊しかねません。

農家にとっての投資計画とは?――その投資、本当に大丈夫なんですか?

投資が過剰かどうかは、実際に数字で予測してみなければ分かりません。①感覚だけでなく数字でも見ること②数年後も含めて考えること、の2点を通して、投資が適切かどうかを考えることが肝心です。

特に抜けがちなのが2つ目の未来予測です。たとえば、手元の現金と口座残高を合わせた手元資金1300万円があるから、大型トラクター1200万円(新品)を買ったとします。これは、プロから見れば、危険な投資に見えます。たとえば、年度末に待ち受けている肥料・農薬費(盆暮れ払)の支払いをする余力がなくなっているかもしれません。毎月発生する従業員の方々への支払いは大丈夫なのか心配になります(手元資金1300万円の会社と聞けば、年商1億円くらいを想像するので毎月の給料で200~300万円くらいは出ていきそうだなと直感的に考えます)。もう少し長期の話をすれば、ここ数年以内に酷暑で不作になったら経営全体で赤字になって、その後すごく苦しむことになるかもしれません。

これを防ぐのが、「計画」です。「もしこの農機具を買ったら、現金の残高はどんな感じで推移するのかな」とか「何年以内に不作になったら、赤字になってしまうのかな」とか「何年後に、次の投資ができそうかな」とかを客観的に考えていくものです。まずは、「もし投資をしたら経営はどうなって、もし投資をしなかったら経営はどうなるのか」を予測するために計画を立てる思ってください。

投資計画を立てるメリット――夜逃げ・自己破産のリスクを減らす

「計画がなければ投資をしてはならないのか」といえば、計画がなくても成功しているケースは確かにあります。ただ、それは運任せな部分もあります。半々くらいの確率で成功しそうかな、という博打を打っているような感覚。

特に大規模な投資(金額が多いもの)や、一度行ったら後には引けないような投資(銀行からお金をたくさん借りたり、正社員を雇ったり、経営や人生の方向性を決定づけたりするようなもの)をするときには、成功すればいいですが、失敗すれば経営にも人生にも大きなダメージになります。これを、半々くらいの確率で挑戦するのはかなりリスキーです。

計画を立てれば、投資の方向性を修正できるので、成功の確率を上げたり、失敗した時のダメージを軽減したりできます。計画を立てること自体に意味はないのですが、計画に沿って方向を修正することで、より確かな経営を実現させられるといった寸法です。

投資計画を立てる最大の理由――現金が足りることを確認したい

投資計画を立てる目的には色々あるのですが、一番は「現金が足りるか足りないか」です。

たとえば、「何も投資をしなければ3年後の売上は今よりも15%下がって利益はちょうどゼロになるけど、口座残高は今よりも400万円増えている」とします。これは実際によくあるケースで、投資をせずに売上が勝手に上がることは(就農初期を除けば)可能性は低くて、投資をしなければ売上高はじりじりと下がっていきます。ただし、投資をしないので現金が流出しませんよね。だから、利益が出ていれば口座残高は増えることが多いです。

逆に、投資をすると現預金を一気に使ってしまうので、口座残高にはかなりの注意が必要です。「2000万円で農業機械を買ったら、3年後の売上は今よりも10%上がって、利益は年間500万円生み出すけど、口座残高は今よりも1400万円少なくなっている」みたいなことが起こりえます。

投資をすると多額の現金が流出しますので、決算書上は利益が出ていても、経営的には苦しい状態を招くことが頻繁にあります。手元の現金を使わずに銀行借入をした場合は、手元の現金の減少は防げますが、借入額が膨らんでしまって、先のことを考えると不安がやはり膨らんでいきます。あまりにも現預金が減ってしまったら、運転資金の名目で銀行借入をする手もありますが、そうすると借入額がさらに膨らんで、経営者の苦悩は増すばかりです。

要するに、投資の何が一番怖いかというと、現金が減ってしまうことが怖いんです。投資をする限り、現預金が減るか、借入額が膨らむかは避けられないので、経営者としては苦しいです。この苦しみを数値化して、「これならギリギリ耐えられそう」とか「この投資をしてしまうと、数年以内に売上高を40%アップさせなければ給与の支払いも難しくなりそうだ」ということが客観的に見えてきます。こうした計算を行うのが投資計画であり、夜逃げや自己破産のリスクを減らすために行うものです。

投資計画の立て方――売上・費用・利益・現金の4ステップ

投資計画を自分で立てるのは結構難しいので、ご相談いただけたら嬉しいです。それでもご自分で立てたいという方に、ポイントを簡単に掻い摘んで説明しますね。

①売上を予測する

投資をした場合としなかった場合で、売上高がどのように変わるのかを考えましょう。

「売上高=単価×販売数」と分解することが、売上予測の足掛かりです。投資によって生産性が1.5倍ほど上がるけれど品質は変わらず維持できる場合なら、単価は変わらず販売数は1.5倍になるとして、投資効果が表れるタイミングには売上高は1×1.5で1.5倍になっていると予測します。ただ、初年度から投資効果が表れるとは限らないので、初年度は圃場面積の半分は投資した機械で、半分は従来通りのやり方でやるから、売上高は現状の1.1倍くらいにしかならない。2年目は圃場全体で使えるようになるはずなので1.3倍、3年目からは機械の使い方も分かるので1.5倍の売上高になりそうだ、と予測を立てていきます。

実は、投資計画を立てる上で、一番センスが問われるのが売上予測です。この辺りは、経営的なロジックと、農家としての現場経験の両輪が求められます。この売上予測が大きく外れると、投資計画は全てが狂います。目安としては、計画と実績の誤差が初年度で10%以内になるように立てたいところです。

②費用を予測する

続いて、投資をした場合としなかった場合で、経営に掛かる費用がどのように変化するかを考えます。売上予測だけで疲れてしまった方も多いと思うので、概要だけ本当に掻い摘んで説明しますね。

費用を分析するときには、費用を変動費と固定費に分けます。売上高が増えたら、それに伴って増えるのが変動費です。たとえば農薬費とか販売手数料とかですね。固定費は、売上高とは関係なく発生する費用のことで、たとえば家賃とか経営者・正社員の給料などです。変動費以外の費用が固定費だと思ってください。

変動費と固定費に分けたら、あとは売上予測との兼ね合いから計算できます。変動費は、売上が1.1倍に増えたら、変動費も1.1倍になると考えます。固定費は売上とは関係なく発生するので、とりあえずはずっと同じものと考えます。1年目も2年目も3年目も同じ額で計算しておきます。これで費用の予測がひとまず立ちました。

③利益額と現預金額を計算する

ここからは、センスなどは必要ありません。ただ計算をするだけです。

まず、売上高から費用を引いて、税金額も計算して、利益を出します。計算ミスをしないようにすれば、利益予測が出来上がります。単純ですね!

続いて、現預金額も計算します。これもただ計算をするだけなのですが、キャッシュフロー計算の考え方が必要になります。原理自体は単純なので、頑張ればできます。

④全体を見直す

ここまでで一通りの予測ができましたが、「本当にこの計画通りにいくのか」を確かめます。実は、一番時間を掛けたい部分がこの見直しです。
※あと、計算ミスは大体ある(ほとんど絶対ある)ので、検算もします。

ここでは、調整のような作業を行います。たとえば売上予測でいえば、「もしかして機械を使って耕作した圃場については、特に初年度はロスも増えるかもしれない」と考えて、販売数を微調整します。

また、費用についても、「最近は肥料も農薬も高騰しているとメーカーの人に聞いた。その人によれば、15%くらいの値上げが見込まれるらしい」となったら、その話を考慮して計算をし直します。

見直しをする過程では、①正確な予測を目指すだけでなく、②最悪の事態が起こっても倒産しないようにすることも目指します。「もし不作になったらどうなるんだろうか」「市場価格が落ちたらどうなるんだろうか」といった悲観的な予測もしてみて、その時の売上高予測を代入してみるわけです。

農業には天候などのリスクが付きものです。ある程度正確な予測を行い、そのうえで最悪な条件のときでも耐えられると分かったら、それは投資へのGOサインです。

投資をする前には、計画を立てよう

ここまで書いていて思ったのですが、やはり投資計画を立てる際には、一度くらいは専門家に相談していただいたほうが良いです。難易度は高いのに、すごく重要な判断を求められている状態で、苦悩や不安を1人で背負い込むのは結構酷なことだと思うんです。

とはいえ、投資計画を立てないよりも、不完全であろうとも計画を立てる方がよほど良いでしょう。過剰な投資によって取返しのつかない事態を招く前に、計画づくりに一度くらいチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

ワンポイントアドバイス

コンサルティング界隈で仕事をしていると、「銀行に提出する投資計画とは別のものを作るべき」という主張を見かけることがありますが、そこまでしなくていいと思っています。

そもそも銀行員という職業は、貸したお金の利息で儲けるのが基本です。銀行は、ぜひともお金を貸したい、お金を借りてほしいというのが基本姿勢です。よほどの投資計画でない限り、銀行はお金を貸したいんです。

基本的に、お金を借りたいあなたと、お金を貸したい銀行の利害は一致しています。それなのに、「本当の計画を見せたらお金を借りられない」というのが実態なのだとすれば、それは経営的にかなりまずい状態だと思います。その窮状を隠して、銀行に「嘘」の計画を出してお金を借りるというのは、やめたほうがいいです。誰も幸せになりません。

私も銀行員だったので分かりますが、銀行側は多少焦げ付いても利益が出るように利息を設定していますし、危険な貸出先には担保をベッタリと貼って経営者保証も付けてなどと、あの手この手で回収できる仕組みを作っています。もし借入が滞ったら、銀行は少し損をするだけです。貸出先が1社潰れたとしても、銀行は潰れません。

しかし、あなたの会社は潰れます。あなたの人生にも大きな痛手となります。大切な従業員も路頭に迷います。それを分かって、それでも借金を勧めるようなコンサルタントは、かなりリスキーだなと感じています。

投資計画は、綿密に練りましょう。きちんとした投資計画なら、銀行にも投資家にも受け入れてもらえるはず。理想論を言うつもりは別にありませんが、裏技的な小手先のテクニックに頼る前に、王道の投資計画を立ててみませんか?

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